2022.09.30 お知らせ

論文掲載のお知らせ:世界初となる”U-to-C”の遺伝子編集をヒト細胞で実現しました

当社は、九州大学農学研究院の中村崇裕教授との共同研究において、RNAの塩基配列を”U”から”C”に編集する世界初の技術を開発し、この技術がヒト細胞でも機能することを実証しました。この研究成果に関する論文は、2022年9月15日、科学雑誌『Communications Biology』に掲載されています。

この技術は、これまで標的とすることができなかった変異に対する遺伝子編集の可能性を切り開くものであり、さまざまな遺伝子疾患に対する治療法の研究開発への貢献が期待されます。今後、安全性や編集効率の向上などに関する研究開発を進め、革新的な遺伝子治療技術の確立を目指してまいります。

◆研究の概要

私たちの細胞ひとつひとつに存在するゲノムは、A、C、G、Tの4つの塩基からなり、その配列によってヒトの体を構成するために必要な情報を保持しています。細胞は、まずゲノムの塩基配列をもとにA、C、G、Uの4つの塩基からなるRNAを生成し、RNAの塩基配列をもとにタンパク質を生産することで生命の維持に必要な活動を行っていますが、ゲノムやRNAの塩基配列が書き換わること(変異)によりさまざまな病気が発症します。こうした病気の治療には、ゲノムやRNAの配列に生じた変異を正常に戻す編集技術が必要です。

現在、ゲノムの塩基配列を編集する手法の開発が加速していますが、一方でRNAの塩基配列を編集する手法の開発は限定的に留まっています。特に書き換えが可能な塩基に関しては、これまで”C”を”U”に、あるいは”A”を”G”に編集する技術が確立されましたが、この他の塩基を書き換える技術は開発されていませんでした。
今回の研究は、植物におけるRNA編集メカニズムを明らかにし、そのメカニズムをもとにRNA上の塩基を”U”から”C”に書き換えるという世界初の遺伝子編集(塩基置換)技術を開発し、この技術がヒト細胞でも機能することを実証しました。

塩基置換技術は塩基の変異を原因とする病気の治療に応用することができ、今回の研究で実現されたRNA上の塩基を“U”から”C”に編集する技術は、これまで標的とすることができなかった変異の編集可能性を切り開きます。また、RNAの編集は、ゲノム配列を変えずに変異を修復することが可能であることから、より安全な治療方法を提供することができます。
今後、効率よく体内で作用させる技術開発や、意図していない編集の発生を減らすといった安全性に関する研究開発などを進めていくことで、新しい遺伝子治療技術になることが期待されます。

本研究は山梨県大村智人材育成基金 山梨県若手研究者奨励事業の助成を受けたものです。

◆論文情報

Ichinose M., Kawabata M., Akaiwa Y., Shimajiri Y., Nakamura I., Tamai T., Nakamura T., Yagi Y. and Gutmann B. U-to-C RNA editing by synthetic PPR-DYW proteins in bacteria and human culture cells Commun Biol 5, 968 (2022).

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